Title.午前様の語らい



注:軽いメンズラブものです。

【配役】
2:0:0


【各キャラ設定】

<利人(りひと)> 28歳 N社○課勤務

会社ではそれとなく愛想がいいが、普段は冷めているようにみえる。
いわゆる、感情を押さえ込むタイプ。しかし、暗いわけではない。
可愛く言えば『素直じゃない』または『いじっぱり』。
肌が男にしては白く、顔は綺麗めで整っており中性的。
それでも身長は171cmほどある。


<樹(いつき)> 28歳 N社●課勤務

必要最低限しか話さないことが多い、大柄のポーカーフェイス。
仕事、スポーツ、料理等なんでもできるため、社内の女性社員らの憧れ。
実家が有名実業家なだけあって一般的な感覚とは豪く違う。
ゆえにマイペースな性格に思える。
たまに感情的になるが、それでもあまり表情に出ない。


【キャスト表】
利人♂:
樹♂:



**********************************************************************



 風呂からあがる利人


 「今上がったか。冷蔵庫にビール、入ってる」


利人 「それはどうも、よいしょっと…」


 「残業か」


利人 「ああ、そうだ。今日はちょっと取引先と揉めてな。……約束した話と違うって言うんだ
    B工程は再来週までにっていう話をしていたのに、突然締め切り早めてきて。
    そのおかげで、この有り様だ」


 「それにしては遅すぎるんじゃないか」


利人 「たまにこのくらいになる時だって、今まであっただろう。だからこれでもまだマシな方だ」


 「そうか」



 無言でこちらを見ている樹に怪訝な顔をする利人



利人 「………何、じっと見つめて。俺の顔にゴミでも付いてるのか」


 「…………いや、本当に残業だったのか」


利人 「は?そうだよ。なんで嘘つく理由がある」


 「その…なんだ」


利人 「?」


 「なんでもない」


利人 「?そう。最近おまえ、よくしゃべるのな。もっと無口だと思っていたんだけど」


 「別に無口でもない」


利人 「そうなのか。……あれ、やけに良いビール入ってるな。どうしたんだこれ」



 樹と話しながらビールを一口飲み、入っていたビールのラベルを見る利人



 「お歳暮だ」


利人 「(笑う)お歳暮って……なんかミスマッチだよな」


 「なぜ」


利人 「そもそも、おまえのその雰囲気とお歳暮自体、異空間だ」


 「失礼だな」


利人 「(堪えながら)悪い。なんとなくそう思っただけだ。気にするな」


 「そう」



 暫くして、ビールを飲み干す利人



利人 「……ビールはもういいな」


 「と言って、もう横になるのか」


利人 「だって、今日は疲れたからさ…寝たいよ。明日の出勤時間、何時だと思う?」


 「7時?」


利人 「それはいつも起きる時間。現場に7時前につけって」


 「現場はどれくらいかかるんだ?」


利人 「2時間以上はかかりそうだ」


 「4時半?」


利人 「そういうこと」


 「…無理するなよ」


利人 「おう、しないさ。………何、抱きしめてんの」


 「いや、なんとなくそういう気分になった」


利人 「……そ、そう」


 「ああ」


利人 「……おまえの抱きしめ方って、癖、あるよな」


 「癖…?抱きしめ方なんかに癖があるのか」


利人 「っく。そんなに笑うなよ…。なんていうかさ、違うんだよな…。
    子どもの頃に親に抱きしめられた感覚とか、昔付き合ってた彼女から抱きしめられた感覚とかと。
    確かにさ、抱きしめられたり、抱きしめたりする時って
    安心したりいろんな感情が生まれるような気がするけど、それとは全く別物だ」


 うっすら笑顔を浮かべる利人だが、不思議そうにする樹


 「安心しないのか」


利人 「いや、安心…どうだろうな。上手く説明できないけど、要するに…平和っていうやつはこんなものなのかなと、思えてくる」


 「なんだ、その褒め殺し」


利人 「あ?これ、褒めてるのか」


 「十分褒めてる」


利人 「ふーん。そう思うのならそう思えばいいさ」


 「…そうする」


利人 「はい、それで結構。じゃあ、俺はもう寝るから。……って、おい。苦しいから腕に力をこめるな」


 「良い匂いがするな、やっぱり」


利人 「は?相変わらず気持ち悪いことをさらっと言うな。シャワー浴びたから無臭だって…」


 「聞くところによると、血縁関係が遠ければ遠いほど、体臭に対して快い香りを感じるんだそうだ」


利人 「へえ、そうなのか。で、俺とお前は血縁関係が遠いって言いたいのか」


 「…………」


利人 「?違うのか」


 「………利人」


利人 「何。もう無駄話は終わりか。それなら離してくれ、老体に鞭打って明日も出勤するんだ…から…」


 「落ち着くな……。おまえに触れていると。いや、落ち着いてはいないか」


利人 「……結局、また抱きしめるのか。俺はもう寝たいんだが」


 「そのまま寝たらいいだろう。俺はこのまま、おまえを抱きしめたまま寝るから、気にせず寝ろ」


利人 「気にせずにいられるか!」


 「どれだけ神経質なんだ」


利人 「あーはいはい。俺はどうせ、ほんの数ミリ当たっただけでも眠りが妨げられる人間ですよ」


 「(笑いをこらえながら)ほんとおまえ、女にまで可愛い言われるだけあるな」


利人 「あぁ!?可愛いとか言うな!身長もそれなりにあって中肉中背の男に似合う言葉か、それ…!
    あーもう、俺は寝るから、二度と触るな」


 「はいはい」


利人 「ったく、汚らわしすぎるんだよ……」


 「………」


利人 「………」


 「………」


利人 「………」


 「………」


利人 「……くそ。視線が痛いんだけど。そんなに俺を見て何が楽しいんだ…?」


 「ん?」


利人 「お、おまえ……もしかして泣いてる?」



 無表情でありながら、目をほんのり赤くしている樹



 「…かもな」


利人 「かもな、って。その顔に全然似合わないな。涙が出るほど、見開いてたのか?俺なんかを見るために」


 「そう…だな」


利人 「相変わらず変人だな、おまえは。今度こそ寝るよ、また明日…」


 「………平和…いや、これは幸せか」


利人 「?」


 「恐らくこれが幸せ…なんだろうと思う。
   ただ、おまえの隣にいて、ただ、お前の話を聞いて、ただ、無防備な表情をするおまえを見ている……。
   たったこれだけのことなんだ。こんな単純なことが俺に安らぎを与えてくれる。
   こんな単純なことから苦しくなってくる……。そういったことを暫く考えていたら、目頭が熱くなった」


利人 「……そう…か」


 「だから、おまえが明日の朝、俺の手元から離れていく。それだけで駄目になりそうな気さえしている」


利人 「……おかしいだろ」


 「ああ。おかしいな。おかしすぎて、自分の狂いように顔を背けたくなる」


利人 「恥ずかしがってるわりには、全然顔に出てないな」


 「昔からそうだ。それに関してはどうしようもない」


利人 「(少しため息)」


 「……」


利人 「おまえの手、熱い」


 「そっちもな」



 一瞬天井を見て、何かを考えるような素振りをみせ、口を開く樹



 「…………そういえば、明日は早朝から仕事…だったな。すまない」


利人 「……いいよ。おまえだって出張帰りで疲れてるんだろ。無理、するなよ。休みは有効的に使った方がいい」


 「……おまえに触れたらなくなったな、そんなもの」


利人 「………あーなんか嫌な鳥肌たってきた。おまえとしゃべってると俺もおかしくなってくるよ。会社で変なこと口走りそうだ」


 「たとえば?」


利人 「たとえばって…」


 「樹、愛してる…とか」


利人 「ない!」


 「え」


利人 「まずあり得ないだろ、俺がそう言ったことを人前で言うなんて…」


 「じゃあ、人前でなければ言ってくれるんだな」


利人 「い、いや、人前じゃなくても……その」


 「……久しぶりに聞いてみたいんだが?」


利人 「なぜ、今言う必要があるんだ」


 「離れている時間を補うために…埋め合わせるために…」


利人 「………………」


 「……………………………」


利人 「わーぁったよ。言えばいいんだろ、言えば」


 「うん」


利人 「(深呼吸)すーっ、はぁー」


 「………」


利人 「……あ、愛、してる。……どうだ言えただろ」


 「俺の名は?」


利人 「…そこ、こだわるか普通」


 「まあな。じゃあもう一度言ってくれ」


利人 「……まじかよ……」


 「3、2、1、キュー…」


利人 「………い、つき…愛して…る。…はぁぁぁ……」


 「ご苦労」


利人 「ご苦労じゃない!言わせておいて感謝とかないのか」


 「感謝、ねぇ」


利人 「……そこで考えるなよ…」


 「(少し溜めて)…ありがとう」



 樹の予想外の返答に目を見開いて動揺する利人



利人 「く……!はっ、反則だ!樹、反則すぎるぞ…それ…」


 「スー……スー…」


利人 「寝て…る?………なんだかもっと恥ずかしくなってきた…。いい、もういい。俺は寝る!」




END.


連絡用メールフォーム


indexへ
inserted by FC2 system