Title.午前様の語らい
注:軽いメンズラブものです。
【配役】
2:0:0
【各キャラ設定】
<利人(りひと)> 28歳 N社○課勤務
会社ではそれとなく愛想がいいが、普段は冷めているようにみえる。
いわゆる、感情を押さえ込むタイプ。しかし、暗いわけではない。
可愛く言えば『素直じゃない』または『いじっぱり』。
肌が男にしては白く、顔は綺麗めで整っており中性的。
それでも身長は171cmほどある。
<樹(いつき)> 28歳 N社●課勤務
必要最低限しか話さないことが多い、大柄のポーカーフェイス。
仕事、スポーツ、料理等なんでもできるため、社内の女性社員らの憧れ。
実家が有名実業家なだけあって一般的な感覚とは豪く違う。
ゆえにマイペースな性格に思える。
たまに感情的になるが、それでもあまり表情に出ない。
【キャスト表】
利人♂:
樹♂:
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風呂からあがる利人
樹 「今上がったか。冷蔵庫にビール、入ってる」
利人 「それはどうも、よいしょっと…」
樹 「残業か」
利人 「ああ、そうだ。今日はちょっと取引先と揉めてな。……約束した話と違うって言うんだ
B工程は再来週までにっていう話をしていたのに、突然締め切り早めてきて。
そのおかげで、この有り様だ」
樹 「それにしては遅すぎるんじゃないか」
利人 「たまにこのくらいになる時だって、今まであっただろう。だからこれでもまだマシな方だ」
樹 「そうか」
無言でこちらを見ている樹に怪訝な顔をする利人
利人 「………何、じっと見つめて。俺の顔にゴミでも付いてるのか」
樹 「…………いや、本当に残業だったのか」
利人 「は?そうだよ。なんで嘘つく理由がある」
樹 「その…なんだ」
利人 「?」
樹 「なんでもない」
利人 「?そう。最近おまえ、よくしゃべるのな。もっと無口だと思っていたんだけど」
樹 「別に無口でもない」
利人 「そうなのか。……あれ、やけに良いビール入ってるな。どうしたんだこれ」
樹と話しながらビールを一口飲み、入っていたビールのラベルを見る利人
樹 「お歳暮だ」
利人 「(笑う)お歳暮って……なんかミスマッチだよな」
樹 「なぜ」
利人 「そもそも、おまえのその雰囲気とお歳暮自体、異空間だ」
樹 「失礼だな」
利人 「(堪えながら)悪い。なんとなくそう思っただけだ。気にするな」
樹 「そう」
暫くして、ビールを飲み干す利人
利人 「……ビールはもういいな」
樹 「と言って、もう横になるのか」
利人 「だって、今日は疲れたからさ…寝たいよ。明日の出勤時間、何時だと思う?」
樹 「7時?」
利人 「それはいつも起きる時間。現場に7時前につけって」
樹 「現場はどれくらいかかるんだ?」
利人 「2時間以上はかかりそうだ」
樹 「4時半?」
利人 「そういうこと」
樹 「…無理するなよ」
利人 「おう、しないさ。………何、抱きしめてんの」
樹 「いや、なんとなくそういう気分になった」
利人 「……そ、そう」
樹 「ああ」
利人 「……おまえの抱きしめ方って、癖、あるよな」
樹 「癖…?抱きしめ方なんかに癖があるのか」
利人 「っく。そんなに笑うなよ…。なんていうかさ、違うんだよな…。
子どもの頃に親に抱きしめられた感覚とか、昔付き合ってた彼女から抱きしめられた感覚とかと。
確かにさ、抱きしめられたり、抱きしめたりする時って
安心したりいろんな感情が生まれるような気がするけど、それとは全く別物だ」
うっすら笑顔を浮かべる利人だが、不思議そうにする樹
樹 「安心しないのか」
利人 「いや、安心…どうだろうな。上手く説明できないけど、要するに…平和っていうやつはこんなものなのかなと、思えてくる」
樹 「なんだ、その褒め殺し」
利人 「あ?これ、褒めてるのか」
樹 「十分褒めてる」
利人 「ふーん。そう思うのならそう思えばいいさ」
樹 「…そうする」
利人 「はい、それで結構。じゃあ、俺はもう寝るから。……って、おい。苦しいから腕に力をこめるな」
樹 「良い匂いがするな、やっぱり」
利人 「は?相変わらず気持ち悪いことをさらっと言うな。シャワー浴びたから無臭だって…」
樹 「聞くところによると、血縁関係が遠ければ遠いほど、体臭に対して快い香りを感じるんだそうだ」
利人 「へえ、そうなのか。で、俺とお前は血縁関係が遠いって言いたいのか」
樹 「…………」
利人 「?違うのか」
樹 「………利人」
利人 「何。もう無駄話は終わりか。それなら離してくれ、老体に鞭打って明日も出勤するんだ…から…」
樹 「落ち着くな……。おまえに触れていると。いや、落ち着いてはいないか」
利人 「……結局、また抱きしめるのか。俺はもう寝たいんだが」
樹 「そのまま寝たらいいだろう。俺はこのまま、おまえを抱きしめたまま寝るから、気にせず寝ろ」
利人 「気にせずにいられるか!」
樹 「どれだけ神経質なんだ」
利人 「あーはいはい。俺はどうせ、ほんの数ミリ当たっただけでも眠りが妨げられる人間ですよ」
樹 「(笑いをこらえながら)ほんとおまえ、女にまで可愛い言われるだけあるな」
利人 「あぁ!?可愛いとか言うな!身長もそれなりにあって中肉中背の男に似合う言葉か、それ…!
あーもう、俺は寝るから、二度と触るな」
樹 「はいはい」
利人 「ったく、汚らわしすぎるんだよ……」
樹 「………」
利人 「………」
樹 「………」
利人 「………」
樹 「………」
利人 「……くそ。視線が痛いんだけど。そんなに俺を見て何が楽しいんだ…?」
樹 「ん?」
利人 「お、おまえ……もしかして泣いてる?」
無表情でありながら、目をほんのり赤くしている樹
樹 「…かもな」
利人 「かもな、って。その顔に全然似合わないな。涙が出るほど、見開いてたのか?俺なんかを見るために」
樹 「そう…だな」
利人 「相変わらず変人だな、おまえは。今度こそ寝るよ、また明日…」
樹 「………平和…いや、これは幸せか」
利人 「?」
樹 「恐らくこれが幸せ…なんだろうと思う。
ただ、おまえの隣にいて、ただ、お前の話を聞いて、ただ、無防備な表情をするおまえを見ている……。
たったこれだけのことなんだ。こんな単純なことが俺に安らぎを与えてくれる。
こんな単純なことから苦しくなってくる……。そういったことを暫く考えていたら、目頭が熱くなった」
利人 「……そう…か」
樹 「だから、おまえが明日の朝、俺の手元から離れていく。それだけで駄目になりそうな気さえしている」
利人 「……おかしいだろ」
樹 「ああ。おかしいな。おかしすぎて、自分の狂いように顔を背けたくなる」
利人 「恥ずかしがってるわりには、全然顔に出てないな」
樹 「昔からそうだ。それに関してはどうしようもない」
利人 「(少しため息)」
樹 「……」
利人 「おまえの手、熱い」
樹 「そっちもな」
一瞬天井を見て、何かを考えるような素振りをみせ、口を開く樹
樹 「…………そういえば、明日は早朝から仕事…だったな。すまない」
利人 「……いいよ。おまえだって出張帰りで疲れてるんだろ。無理、するなよ。休みは有効的に使った方がいい」
樹 「……おまえに触れたらなくなったな、そんなもの」
利人 「………あーなんか嫌な鳥肌たってきた。おまえとしゃべってると俺もおかしくなってくるよ。会社で変なこと口走りそうだ」
樹 「たとえば?」
利人 「たとえばって…」
樹 「樹、愛してる…とか」
利人 「ない!」
樹 「え」
利人 「まずあり得ないだろ、俺がそう言ったことを人前で言うなんて…」
樹 「じゃあ、人前でなければ言ってくれるんだな」
利人 「い、いや、人前じゃなくても……その」
樹 「……久しぶりに聞いてみたいんだが?」
利人 「なぜ、今言う必要があるんだ」
樹 「離れている時間を補うために…埋め合わせるために…」
利人 「………………」
樹 「……………………………」
利人 「わーぁったよ。言えばいいんだろ、言えば」
樹 「うん」
利人 「(深呼吸)すーっ、はぁー」
樹 「………」
利人 「……あ、愛、してる。……どうだ言えただろ」
樹 「俺の名は?」
利人 「…そこ、こだわるか普通」
樹 「まあな。じゃあもう一度言ってくれ」
利人 「……まじかよ……」
樹 「3、2、1、キュー…」
利人 「………い、つき…愛して…る。…はぁぁぁ……」
樹 「ご苦労」
利人 「ご苦労じゃない!言わせておいて感謝とかないのか」
樹 「感謝、ねぇ」
利人 「……そこで考えるなよ…」
樹 「(少し溜めて)…ありがとう」
樹の予想外の返答に目を見開いて動揺する利人
利人 「く……!はっ、反則だ!樹、反則すぎるぞ…それ…」
樹 「スー……スー…」
利人 「寝て…る?………なんだかもっと恥ずかしくなってきた…。いい、もういい。俺は寝る!」
END.
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